一時は「斜陽産業」といわれていた日本の映画業界ですが、最近は活気を取り戻しています。業界最大手の東宝は、2025年2月期決算で本業のもうけを示す営業利益が2年連続で過去最高を更新しました。東宝に次ぐ規模の東映も2024年9月中間決算で、売上高も営業利益も過去最高になっています。
好業績のキーワードは「アニメ」と「海外」です。日本のアニメは以前から国内外で高い評価を得ていましたが、ここにきて一段と人気が上がっています。これまでに制作された映画作品の配信権やグッズの商品化権の販売などが海外で伸び、東宝のゴジラ作品のように特撮を使った実写映画もアメリカでヒットして、業績を押し上げています。日本の映画業界は大きな産業とは言えませんが、アニメを中心に世界での競争力を持つ業界に育ちつつあります。業界の求人数は多くないため、人手不足の時代でも就活は容易ではありませんが、映画が好きな人、エンターテインメントに興味がある人にとっては挑戦する価値がある業界だと思います。
(写真はiStock)
東宝、東映、松竹が大手3社
映画業界の会社は、映画との関わり方によって映画を制作する会社、映画を配給する会社、映画館を運営する会社などに分類されます。最近認知度を増している動画配信会社も、広い意味で映画業界に入ると考えられます。日本には、映画を制作し配給する大手の会社が東宝、東映、松竹の3社あります。売上高がもっとも大きいのは東宝(2025年2月期の売上高は3131億円、営業利益は646億円)で、2番目に大きいのは東映(2024年3月期の売上高は1713億円、営業利益は293億円)です。2025年3月期の決算は公表前ですが、増収増益を予想しています。松竹の2025年2月期決算は売上高が839億円、営業利益が16億円でした。
(写真・東宝の決算会見で説明する太古伸幸副社長=2025年4月14日/朝日新聞社)
東宝はアニメと海外を追い風にして好調
3社にはそれぞれ特徴があります。東宝は映画、演劇、不動産、アニメの4本柱で堅実な経営をしています。アニメやゴジラの知的財産(IP)を活用して海外売上高比率を3割に引き上げることをめざしています。東映は多角的な展開をしているのが特徴で、一般の映画制作のほか、キャラクターショーなどのイベント、テレビドラマや学校向けの教育映画の制作などもしています。京都に東映太秦映画村というテーマパークも持っています。松竹は歌舞伎を中心とした演劇事業にも力を入れているのが特徴です。歌舞伎座、新橋演舞場、大阪松竹座、京都南座の4つの劇場を持ち、映画と並ぶ柱になっています。
(写真・東京・日比谷のゴジラ像=2024年3月11日/朝日新聞社)
ジブリやKADOKAWAに提携の動き
業界では、アニメやIPの将来性を見越した動きが出ています。アニメ映画制作のスタジオジブリは2023年に日本テレビホールディングスの子会社になりました。日本テレビは多くの大ヒットアニメ映画を制作したジブリが持つIPに魅力を感じて提携に動いたものとみられます。また、2024年末には、ソニーグループがKADOKAWAの筆頭株主となることが発表されました。KADOKAWAはアニメを制作する力を持っており、ソニーはKADOKAWAと共同でアニメ作品の制作を手がけようとしてグループ内に取り込んだとみられます。
(写真・東京都三鷹市にある「三鷹の森ジブリ美術館」=2021年/朝日新聞社)
「実写の洋画」は低迷する傾向
日本の映画界で最近起きている特徴的な傾向は、洋画の不振です。2024年の映画興行収入を見ると、海外の実写映画はトップ10にひとつも入らず、実写洋画トップの「ウォンカとチョコレート工場のはじまり」でも全体の16位でした。日本では2006年に邦画が洋画のシェアを上回って以降、「洋画離れ」が進んでいます。また、アニメ映画の人気が高まり「実写離れ」も加わっています。つまり、「実写の洋画」は低迷し、「アニメの邦画」が伸びるという流れです。日本の映画業界がアニメに力を入れているのは、その流れを受けてのものです。
どういう形でかかわるかをイメージ
映画については、このほかテレビ局が中心になって制作するものがあります。また、 Netflix やWOWOWなども映画を制作しています。ギャガ(GAGA)や東北新社など、映画の配給に力を入れている会社もあります。仕事内容としても、制作に関してはプロデューサー、監督、脚本家、カメラマン、映像編集者などがあり、配給関係では映画の買い付け、営業、宣伝などがあります。志望する人は、映画の仕事にどういう形で関わるかを具体的にイメージして臨む必要があります。
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