郵便物や荷物を運ぶ日本最大級の物流企業・日本郵便の社長が交代します。顧客情報の流出や配達員の飲酒運転、法定点呼の未実施などの不祥事が頻発したことが背景にあるとみられています。また、ヤマト運輸とはじめた配達委託の協業がうまくいかず、民事裁判になるほどのトラブルになっていることもつまずきのひとつになっています。
日本郵便やヤマト運輸はトラックによる運送事業会社の大手です。こうした運送事業はネット通販の拡大に伴いニーズが増えているのですが、運送を支えるトラック運転手が不足しているという大きな課題があります。もともときつい仕事というイメージがあったり、将来は自動運転化が進むという見通しがあったりして、若い人から敬遠されがちな仕事でした。そこに「2024年問題」と呼ばれる長時間労働をなくすための残業時間規制が始まり、人手不足がいっそう深刻になっているのです。業界はその解消に向けて様々な取り組みをおこなっていますが、待遇改善や輸送の最適化を図るためには業界の再編が必要という見方もあります。
(写真・郵便局に入るトラック/写真はすべて朝日新聞社)
わずかな大手と多くの中小企業
国土交通省の調べによると、2024年3月末時点の貨物自動車運送事業者数は全国で6万2848に上ります。このうち、従業員が10人以下の事業者が49.4%を占め、1001人以上の事業者は0.1%にすぎません。つまり、日本のトラック運送業界はわずかな大手企業と多くの中小企業によって成り立っているということです。大手運送業者は中小業者を下請けや孫請けとして使うことが多く、多重構造になっています。このように、零細な企業に所属する運転手が多い構造が運転手の待遇改善につながりにくい原因といわれています。
日本郵便、日本通運、ヤマト運輸、佐川急便など
大手企業としては、日本郵便(2024年3月期の営業収益3兆3237億円)、NIPPON EXPRESSホールディングス(日本通運など、2024年12月期の営業収益2兆5776億円)、ヤマトホールディングス(ヤマト運輸など、2024年3月期の営業収益1兆7586億円)、SGホールディングス(佐川急便など、2024年3月期の営業収益1兆3169億円)、ロジスティード(旧日立物流、2024年3月期の営業収益8002億円)、セイノーホールディングス(西濃運輸など、2024年3月期の営業収益6428億円)などがあります。
(写真・日本郵便のロゴ)
宅配事業はヤマト、佐川、日本郵便の3社
それぞれの会社には特徴があります。ヤマト運輸と佐川急便は比較的小さな荷物を各戸に届ける、いわゆる宅配事業を主力とする会社です。日本郵便も宅配事業をおこなっていますが、もともと郵政省の郵便事業が民営化された会社なので、郵便事業のほかにゆうちょ銀行やかんぽ生命保険から受託している窓口業務も主要な事業になっています。NIPPON EXPRESSはかつて宅配事業をおこなっていましたが、収益力が低いため日本郵便のゆうパックと統合し、撤退しました。今は、企業間の物流などに大きな強みを発揮しています。このほか、引っ越しサービスに特化した物流業者もあり、さかい引越センターやアート引越センターなどが大手となっています。
航空機を使ったり自衛官を勧誘したり
人手不足については、さまざまな対策がおこなわれています。ひとつはトラック依存からの脱却です。たとえば、ヤマトグループは貨物航空機を使い始めています。3機をリースし、日本航空(JAL)の子会社の格安航空会社(LCC)であるスプリング・ジャパンに運航を委託。成田、羽田と新千歳、北九州、那覇の各空港を結び、荷物を運んでいます。航空輸送は比較的軽い荷物を遠くに運ぶことに適していることから、導入に踏み切りました。トラック運転に必要な免許や資格を持っている人が多い自衛官に目をつけ、定年退職した人にトラック運転手になってもらおうという取り組みもあります。業界団体が国土交通省や防衛省と協定を結び、人材確保につなげる動きをすすめています。また、ドローンによる配送も過疎地域で徐々に始まり、飲食店の出前や医薬品、新聞などを運んでいます。トラックによる無人運転も遠くない時期に実用化されそうです。高速道路に拠点をつくり、無人トラックが高速道路限定で貨物を運ぶことから始めようとしています。
(写真・コンテナの積み込みが行われるヤマトHDの貨物専用機=2024年4月11日、新千歳空港)
業界再編の動きは必然か
2025年2月には、日本郵便が運送業のトナミホールディングス(本社・富山県高岡市)を買収すると発表しました。トラック運転手の不足などに対処するため、輸送ネットワークの再編や最適化につなげようとしているのです。今の多重下請けの業界構造のまま人手不足を完全に解消するのはむずかしいと考えられます。買収や合併などを通じて業界を再編し、トラック運転手の待遇改善や輸送の最適化を進めることが求められます。業界の構造はまだまだ古く、業界再編の動きは必然的な流れかと思われます。物流を維持するための仕事は、刺激的でやりがいがあるのではないでしょうか。
(写真・飛行前のドローンを点検する佐川急便の担当者=2024年12月2日、東京都青梅市)
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