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2025年03月06日

値上げラッシュの食品業界、安定成長はどこまで続くか?

食品・飲料

 食品業界はわたしたちになじみの深い業界です。メーカーの業態を、会社向けに商品を売る「BtoB」と一般消費者向けに商品を売る「BtoC」に分類する方法があり、BtoCはBtoBに比べて知名度の高い会社が多くなります。加工食品メーカーの多くはBtoCに分類され、高知名度のメーカーがたくさんあるのです。

 高い知名度があるということは、多くの消費者のふだんの購買行動に組み込まれているということです。そのため大手食品メーカーの業績はほかの業界の会社に比べて安定していて、長く黒字が続いている会社がふつうです。ただ現在は、円安や人手不足や世界情勢の緊迫化などで原材料価格が高騰しているため、利益が圧迫される状況になっています。それをカバーするには値上げが必要となり、いま食品は値上げラッシュとなっています。もともと食品業界は日本の人口減を見越して輸出や海外進出に力を入れていましたが、それを加速させる動きにもつながっています。日本の食は繊細で多彩なうえ、創意工夫によって進化しているといわれます。加工食品メーカーもそうした日本の食文化を受け継いでおり、国際競争力をさらに高めようとしています。
(写真はiStock)

売上高トップは味の素で、次が日本ハム

 加工食品メーカーを広くとらえるとビールメーカーなどの酒類や飲料のメーカーも含まれますが、ここではそうしたメーカーを除いた加工食品メーカーを食品業界とします。その中でもっとも売上高の大きいのは味の素で、1兆4392億円(2024年3月期)です。味の素は1909年に調味料メーカーとして創業した歴史のある会社ですが、今は総合食品会社となり、冷凍食品やヘルスケア製品も大きな比重を占めるようになっています。次に大きいのは日本ハムで1兆3034億円(2024年3月期)です。3番目に大きいのは、山崎製パンで1兆2444億円(2024年12月期)となっています。
(写真・味の素本社の看板=2024年3月7日/朝日新聞社)

明治は医薬品が2000億円を超える

 明治ホールディングスも1兆1054億円(2024年3月期)の売上高があります。チョコレートなどを主力としていた明治製菓とヨーグルトや牛乳などのメーカーだった明治乳業が2009年に経営統合してできた会社ですが、今は医薬品にも力を入れており、医薬品の売上高が2000億円を超えるところまできています。マルハニチロの売り上げは1兆306億円(2024年3月期)です。もともと水産会社だった2社が合併した会社で、水産資源事業が中心ですが、冷凍食品を中心とする加工食品事業も伸ばしています。ほかにも、小麦粉を主力商品とする日清製粉グループ本社は売上高8582億円(2024年3月期)、カップ麺を主力商品とする日清食品の売上高は7329億円(2024年3月期)、醬油を主力商品とするキッコーマンは6608億円(2024年3月期)などとなっています。
(写真・明治ホールディングスの本社ビル=東京・京橋/朝日新聞社)

100年を超える歴史のある企業

 売上高の大きい食品メーカーの特徴は、それぞれの分野で業界トップであることと歴史の古い会社が多いことです。ハム、調味料、パン、菓子、カップ麺、小麦粉、醤油などの分野でトップの企業が、軸となる分野を大切にしながらそれを広げる形で成長してきたことを示しています。また、日清製粉は1900年、味の素は1909年、明治ホールディングスは1916年、キッコーマンは1917年に創業していて、どの会社も100年を超える歴史があります。日本ハム、山崎製パン、日清食品などは戦中~戦後の創業ですが、いずれも戦後の食糧難の時代を栄養食という切り口で成長していった企業です。

醤油のキッコーマンの収益は海外が77%

 食品は人口が顕著な制約要因になる業態です。付加価値をつけることによって高い値段でも売れるようになれば人口が増えなくても成長しますが、食品では高い値段をつけることのできる画期的な商品はそうそう生まれません。ということは、人口減少が始まっている日本の市場だけで展開していれば頭打ちになることが目に見えているということです。このため、市場を海外に求める動きが活発になっています。味の素は34の国・地域に現地法人を置き、アジアに77,南北アメリカに27、ヨーロッパ・アフリカに12の工場を持っています。日清食品も海外に力を入れていて、海外売上比率は2024年3月期には4割近くになっています。キッコーマンは海外比率がさらに高く、海外における醤油の売上高はここ50年の平均の年の伸び率が7.1%もあります。今や全体の収益の77%が海外という状況です。醤油と言えば日本の調味料というイメージですが、実は海外で大きく伸びているのです。
(写真・高級ホテル内のレストランで、キッコーマンのしょうゆが用いられている=2024年9月10日、インドの首都ニューデリー/朝日新聞社)

商品を通じて企業イメージをつかむ

 食品メーカーにとって大切なのは、おいしさとともに健康にいいことです。安全性が損なわれていたり異物が混入したりすると、たちまち業績に大きなダメージとなります。逆に健康にいいとされると、売り上げが一気に伸びることがあります。商品開発には研究や企画が重要で、工場設備についても清潔さや温度管理などが重要です。環境問題や人権問題などに敏感になることも、食品企業のイメージにとって大事なのです。食への関心だけでなく、社会への関心も必要になるということです。食品業界はみなさんの身近に商品があり、商品を通じて企業のイメージをつかむことがある程度できる業界だと思います。食品業界に関心を持っている人は、自分の好きな商品があれば、それをつくっている会社についての研究から始めるのがいいと思います。

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