この秋、東北電力女川原子力発電所2号機が再稼働しました。2011年の東日本大震災で被災して止まっていましたが、原子力規制委員会の審査を通り、発電を始めました。これまで再稼働した6原発12基はすべて西日本にある原発で、女川原発は東日本で初めての再稼働になります。12月には中国電力島根原子力発電所2号機も再稼働する予定で、原発回帰の流れが着実に進んでいます。
すでにある原発を動かすことは、安いコストで安定的な電気を供給することにつながり、電力会社は強く希望しています。さらに、社会にも原発の活用を求める流れが出ています。これは今後、人工知能(AI)が社会のあちこちで使われるようになることで、電力需要が急増すると想定されているためです。地球温暖化を防ぐために二酸化炭素(CO₂)を出す火力発電は減らす方向をとらざるをえません。太陽光や風力などの再生可能エネルギーを増やすには立地などの限界があります。そうなると、増える分は原発に頼らざるを得ないというわけです。東日本大震災のあとには「脱原発」が叫ばれましたが、今の流れは脱「脱原発」のようです。
(写真・再稼働した女川原発2号機(手前右の建物)=2024年10月29日/写真、図表はすべて朝日新聞社)
自由化により新電力が参入
20世紀の電力業界は、10社が地域ごとに発電から小売りまでを独占する形をとっていました。東京電力、関西電力、中部電力、東北電力、九州電力、中国電力、北海道電力、北陸電力、四国電力、沖縄電力がその10社です。今もこの10社が大手であることに変わりはありませんが、20世紀末から段階的に自由化が進み、発電にも小売りにも新電力の参入が相次ぎ、約700社もの会社がひしめく業界になりました。大手もそれぞれ持ち株会社の下に発電会社、送電会社、小売り会社などがぶら下がる形になり、どの会社に入るかで仕事は異なります。
原発の比率がどれくらい上がるか注目
発電部門については、どういう電源でどれくらい発電するかを示す基本的な計画は政府がたてています。エネルギー基本計画というもので、だいたい3年に1回の見直しをおこなっています。今は2021年度にたてた第6次エネルギー基本計画の期間中ですが、今年度内の改定をめざし第7次基本計画の議論がおこなわれています。2030年度に向けての現在の計画は、液化天然ガス(LNG)火力発電を37%から27%に、石炭火力発電を32%から26%に、石油等火力発電を7%から3%に減らし、再生可能エネルギー発電を18%から22~24%に、原子力発電を6%から20~22%に増やすとしています。第7次では再生可能エネルギーと原発の比率がもっと上がるとみられますが、中でも増産余地の大きい原発の比率がどれくらい上がるかが注目されます。
AIの活用で電力需要は減るから増えるに
日本の電力需要は少し前までは徐々に減っていくという予測でした。人口が減少しているうえ、節電や省エネの効果が出るというのが理由でした。ところが、チャットGPTが登場してAIの活用が一気に現実味を帯びると、コンピューターを集めたデータセンターの建設ラッシュが起こりました。データセンターはコンピューターを動かすだけでなくコンピューターから出る熱を冷ますための電力も必要で、電力需要は逆に増えるという予測になりました。エネルギー基本計画の議論に出された電力広域的運営推進機関の2024年度推計によると、2033年度には2023年度の需要より4%増えるとされ、さらに上振れする可能性もあるとみられています。アメリカでは、ネット通販のアマゾンが小型原発の開発企業に出資すると発表したり、マイクロソフトがかつて大規模な事故を起こしたスリーマイル島原子力発電所から20年間の電力購入契約を結んだと発表したりするなど、原発による電力をIT大手が確保する動きが続いています。
(写真・シアトルにある米アマゾンの本社=2019年9月)
再エネで期待されるのは洋上風力
再生可能エネルギーへの期待は変わらず大きいものがあります。日本の場合、東日本大震災後、太陽光発電が一気に増えましたが、そろそろ適地が少なくなってきています。また、陸上の風力発電も増えましたが、こちらも適地が少なくなっています。そこで今、もっとも期待されているのが洋上風力発電です。洋上にはまだ適地がたくさんあり、巨大な風車を立てることも可能です。さらに海に浮かぶ浮体式洋上風力発電も技術的には可能になっていて、大きな将来性を秘めています。その主導権をとるべく電力会社の競争が始まっています。
(写真・能代港沖に並ぶ洋上風力発電の風車=2022年12月9日、秋田県能代市)
公益企業として安全を第一に
電力会社はかつて地域でもっとも安定した大企業として、東日本大震災前まではほとんどの地域の経済団体のトップを電力会社のトップが占めていました。証券市場でも、「電力会社の株を買っておけば損はしない」といわれるほど安定していました。しかし、自由化の波と東日本大震災による原発事故で、そうした「地域の殿様」の位置づけは大きく変わりました。それに伴い、就職人気も下落気味でした。ただ、ここにきて経済界などからは「原発の再活用」の声が強まり、原発の新増設を求める声も出るようになっています。社会になくてはならない会社としての評価を取り戻しつつあるようです。ただ、原発の活用で何より大切なのは安全です。志望する人は公益企業であることを忘れずに安全を第一に考えるようにするといいと思います。
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